2.対ラ米諸国関係
(1)チャベス大統領のメルコスール首脳会合出席
(イ)1日、サン・ミゲル・デ・トゥクマン市(アルゼンチン)で開催された第35回メルコスール首脳会合において、出席したアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、チリ、ボリビア及びベネズエラ各国首脳は、世界的な食糧及びエネルギー危機に対するラ米諸国の潜在能力を強調するとともに、世界的需要にブロックとして対峙するための地域統合の必要性について一致した。また、各国首脳はEU議会が承認した移民対策法を非難した。
(ロ)出席したチャベス大統領は、域内の農業生産推進のための基金創設を提案し、石油価格が100ドル/バレルを超えた場合、ベネズエラが輸出する石油1バレルにつき1ドルを同基金に寄付すると述べ、右が年間9億2千万ドルになるとの見込みを示した。
(ハ)また同大統領は会合の場で、米国がカリブ及びラ米海域に第四艦隊を派遣する計画の必要性に疑問を呈し、右はラ米諸国に対する脅威であるとした。EUの移民政策に対しては、欧州各国政府に再考を求めたいとした上で、右に対抗して欧州の投資を追放する法律をベネズエラ国内で定める可能性についても言及した。
(ニ)会談後、チャベス大統領はオリノコ製鉄会社(SIDOR社)国有化問題に言及し、同社の株式価格に関してTECHINTグループとの間でほぼ合意に達し、亜側のTERNIUM社が株式の10%保有で合意したと述べた。他方、同社関係者は同日、会合は開催されておらず、合意にも達していないと述べた。アルゼンチンのラ・ナシオン紙によれば、TERNIUM社は合意に達しない場合、国際投資紛争解決センターに提訴する可能性もあると報じている。SIDOR社のベネズエラ政府への権限譲渡は1日に予定されていたが、実際には1日に始まる週の内に行われる見込みである。
(2)ペトロカリブ首脳会合の開催
(イ)12日及び13日、マラカイボ市にて第5回ペトロカリブ首脳会合が開催され、加盟17ヶ国及びグアテマラ、コスタリカの代表団が出席した。中でもグアテマラのペトロカリブ加盟が今次会合の中心的話題となった。13日の首脳会合に先駆け、12日開催の閣僚会合でラミレス・エネルギー石油大臣は、同国の加盟の重要性を強調するとともに、コスタリカが今後オブザーバーとして参加することについても言及した。
ラミレス・エネルギー石油大臣は、ペトロカリブの枠組みに基づき、日量20万バレルの原油及び関連商品が加盟各国に供給されており、それに必要な貯蔵施設や輸送インフラ等も整備されてきていると発言した。また2005年のペトロカリブ創設から今日に至るまでに1億ドルの社会投資を行ってきたと述べた。
(ロ)13日の首脳会合の席上では、加盟諸国首脳より昨今の原油高に関する憂慮が表明された。通常、支払額の50%を90日以内に支払い、残り50%を(2年間の支払い猶予期間の後、1%の利率で)25年間で完済することとなっているが、チャベス大統領は、要請を受け、原油価格が1バレル当たり100ドル以上を維持する場合、それぞれの比率を前者40%、後者60%とする旨発表した。更に油価が150ドルに達した場合、その比率は各々30%、70%となる。
この他、ゴンサルベス・セント・ビンセント首相の要請を受け、チャベス大統領は加盟諸国に農業用肥料10万トンを市場価格より40%割引で供給すると発表した。またオリノコ地帯の数ブロックを加盟国に割り当て、そこから生産される原油を加盟国で精製する可能性を示唆した。
(ハ)チャベス大統領は、加盟諸国の負債は財、サービスあるいは農産物等により支払い可能であると強調し、加盟国内での市場網を整備する必要性を主張した。また、4億6千万ドルの拠出でベネズエラが食糧基金を設置すると述べ、油価が1バレル100ドル以上の場合、1バレルにつき1ドルを食糧関連への投資に回すと発言した。
(3)対ボリビア関係
(イ)1日、在ボリビア・ベネズエラ大使館はコミュニケを発出し、6月21日にモラレス政権に批判的なテレビ局UNITELが爆破された事件への関与を否定し、ベネズエラに対する批判が悪意と不公正に満ちたものであるとした。モンテス大使名で発出された右コミュニケによれば、こうしたベネズエラ批判は、米国政府によって企てられた組織的な国際キャンペーンの一環であり、ベネズエラの革命やラ米国民が選択した統合と主権確立に反対するものであるとしている。
野党Podemos所属のキロガ元ボリビア大統領は、在ボリビア・ベネズエラ大使館が借り上げた車両からUNITELに向けてダイナマイトが投げ入れられており、ベネズエラ大使館が計画し爆薬も用意したと発言した。爆破事件は、タリハ県で実施された自治憲章に係る県民投票前日に発生した。
(ロ)第197回独立記念日にあたる5日、モラレス・ボリビア大統領は、当国国会で記念演説を行った。同大統領は、炭化水素資源の国有化を延期するようにとのチャベス大統領及びカストロ前キューバ国家評議会議長の進言にも関わらず、国有化を進めたことにより、国家歳入が2006年の3億ドルから2007年の19億ドルへの増収となった旨発言した。これにより、2006年には17億ドルでラ米最下位だった外貨保有も2007年には70億ドルに達したと述べた。ボリビア国内情勢につき度々言及したモラレス大統領は、こうした税収により「汚い経済戦争」を乗り切ることが出来ると発言した。またチャベス大統領が8月6日のボリビア独立記念式典に出席する可能性もあると言及した。
独立記念日の国会では、2006年、キルチネル亜大統領(当時)が外国首脳として初めて演説を行っている。
モラレス大統領に続いて演説したチャベス大統領は、欧州議会で承認されたEUの移民政策が実施された場合、欧州の投資を追放すると発言した。国会演説の前にモラレス大統領と軍事パレードに出席したチャベス大統領は、米国がカリブ及びラ米海域に第四艦隊を派遣する計画の必要性に疑問を呈し、いかなる勢力も革命を制止することはできないと発言した。
(ハ)12日、モラレス・ボリビア大統領は、ベネズエラから同国に対する資金援助は中央銀行等を経由することなく直接在ボリビア・ベネズエラ大使館より供与されている旨発言した。同大統領によると、右手続きはモラレス大統領がチャベス大統領に依頼したもので、これにより、国内での官僚主義的手続きを回避し、各種プロジェクトに迅速に対応出来る。
(4)対コロンビア関係
(イ)3日、マルガリータ島で4日まで開催中の非同盟諸国通信・情報大臣会議に出席したチャベス大統領は、ベタンクール元大統領候補、米兵3名他、15名のFARC人質解放に関して知らせを聞いたときは仰天したと述べつつ、祝意を表明し、FARCに非武装化を呼びかけた。また更なる人質解放、コロンビアにおける和平実現に向けた協力を約束した。
チャベス大統領は、11日にカラカスで実施予定のウリベ大統領との会談につき、これまでの舌戦は既に過去の出来事であり、兄弟のようにウリベ大統領を受け容れる準備があると述べた。また、「チャベス大統領及びコレア・エクアドル大統領はコロンビアの民主主義とウリベ大統領の正当性を尊重するという条件で人質解放に参加すべき」とのベタンクール氏発言に対してはコメントを残さなかった。
他方、国会も今次FARC人質解放に祝意を表明し、仏、西、スイス、伯等、コロンビアの紛争問題解決にむけた諸外国の協力を評価する決議を採択したが、審議の場において、一部国会議員がウリベ政権による今回のオペレーションを「見せ物」「でっちあげ」であるとして批判する場面も見られた。
(ロ)11日、ベネズエラを訪問したウリベ大統領はパラグアナ精油所(プント・フィホ、ファルコン州)を視察し、チャベス大統領と会談を行った。会談後の共同記者会見でチャベス大統領は、今次会談で両国間の外交問題を克服し、関係の再出発を決定したと述べた。また、各大臣に対し、両国間でペンディングとなっている課題に取り組むよう指示したと述べた。コロンビア側が提案している両国間をつなぐ鉄道建設については、すばらしい案であるとし、14日にはマラカイボ市で右プロジェクトの礎石を置くと発表した。
これに対しウリベ大統領は、会談の詳細は明らかにしなかったが、チャベス大統領から(FARC人質解放に関するチャベス大統領の)仲介の突然の中断理由を問われたことを明らかにした。また、両国の大使館業務を再開することが重要であると述べた。
(ハ)17日、マドゥーロ外相は、イングリッド・ベタンクール元コロンビア大統領候補他FARC人質の解放作戦において、国際赤十字のロゴ・マークが利用されたことを憂慮する旨発言した。同外相は、国際和平の象徴に対する敬意は絶対的なものであり、それが遵守されない場合、武装紛争時に適用可能なルールを危機にさらすことになると述べた。
|