2.対米関係
(1)ダディ駐ベネズエラ米国大使に対するペルソナ・ノン・グラータの通告
(イ)11日、チャベス大統領はダディー駐ベネズエラ米国大使に対し、72時間以内に国外退出するよう要求し、現時点から米国との外交関係を再検討することを表明した。右は、米国が駐米ボリビア大使に国外退去を命じたことに応えるものと見られ、チャベス大統領は米国の措置について批判していた。また大統領はアルバレス駐米ベネズエラ大使に対し、本国への召還命令を発出し、米国に新政府が誕生した際に再度大使を派遣すると述べた。
(ロ)12日、外務省はコミュニケにおいて、ベネズエラ政府は米国政府のベネズエラ国民に対する敵意の表明及びボリビア政府及び大統領に対する不安定化活動をふまえ、米国大使にペルソナ・ノン・グラータを通告するとし、我々の国、同国民及び兄弟国ボリビアへの尊重を保証するため、米国との関係を徹底的に見直すことを決定したと発表した。
(ハ)同日、マコーマック米国務省報道官は、チャベス大統領及びモラレス大統領による米国大使国外退去命令の発出を残念なものであるとし、右は国内問題に対処するにあたっての両大統領の脆弱さ及び失望を反映するものだと述べた。また、米国政府も右措置に対抗し、アルバレス駐米ベネズエラ大使に即座の国外退去を命じると述べた。
(二)18日付当地報道で、本国に召還されたアルバレス駐米ベネズエラ大使は、米国から国外退去を命じられる前に出国したとし、ベネズエラ政府の大使国外退去決定は外交の枠組みで行われたものであり、厳しい決定で政治的関係を縮小するものである一方で、商業及び文化関係は完全に保持されるものであると述べた。
(2)米国外国資産管理局によるチャシン前内務司法大臣等の資産凍結
(イ)13日付当地主要紙は、米国外国資産管理局(OFAC)が、チャシン前内務司法大臣、カルバハル軍事諜報局(DGIM)長官及びランヘル内務警察(DISIP)長官をコロンビア革命軍(FARC)との関係疑惑により資産凍結対象国・個人リストに加えたことを発表したと報じた。当面、右3名は米国内資産を凍結され、また米国市民が該当者と商取引等を行うことが禁止されることになる。
(ロ)14日、チャベス大統領はこの措置に対し「アロー・プレシデンテ」番組内に於いて、卑劣な行為であると非難し、ダディー米国大使の国外退去決定に対する報復措置であると断言した。
(3)「アントニーニ事件」の審議開始
(イ)9日、マイアミに於いて、ベネズエラ人起業家アントニーニ氏が現金約80万ドルをアルゼンチンに持ち込もうとした事件に関し、米国内でベネズエラ政府のエージェントとして現金の出所及び目的を隠蔽すべく活動したとされるドゥラン氏の容疑につき審議が開始された。本件への関与を認めているマイオニカ氏は証言に於いて、チャベス大統領も本件を承知しており、大統領自身がランヘル内務司法省・内務警察(DISIP)長官を本件解決のために指名したと述べた。
(ロ)マルビヒル米国検事は、ランヘルDISIP長官及びアイサミ内務司法次官(当時。現同省大臣)が、ドゥラン容疑者に対し、アントニーニ氏のアルゼンチンにおける弁護人を手配するよう要請したと述べ、アントニーニ氏は事件発生12日後に既にFBIとコンタクトをとっており、FBIの助言に基づき、現金所持を正当化する書類及び200万ドルを要求する書面をチャベス大統領宛に送付しており、審議では右書面をスペイン語に翻訳したFBI翻訳官も証言した。関与を指摘されたエル・アイサミ現内務司法大臣は、右指摘は馬鹿げたものであり、応答するつもりはないと述べた。
(ハ)16日、チャベス大統領は大統領府での記者会見の中で、アントニーニ氏について面識はないとして、右資金の源がベネズエラ石油公社(PDVSA)であったとの説を否定し、本件は米国政府による創作であると述べた。
(4)ベネズエラに対する各米大統領候補の発言
(イ)4日、マケイン共和党大統領候補の中南米ブレーンであり、レーガン及びブッシュ父政権時代の駐ベネズエラ米国大使であるライヒ氏が、マケイン候補の対中南米政策及びライヒ氏のチャベス大統領への見方について語り、マケイン候補は中南米に「注意」は払うだろうが、優先地域にはならないと発言した。チャベス大統領について同氏は、「米国民及び米国大統領を侮辱し続け、我々の利益に反する行動をとる米国の敵である。彼はベネズエラ経済と民主主義機構を破壊しており、彼が唱える21世紀の社会主義は、1930年代にヒトラーやムッソリーニが領土拡張主義者になる前に行っていたことと同じである。我々は過激主義政府と協力したくはない。チャベスは、米国大統領選挙後に対米政策を大きく変えなければならないが、それに関して私は楽観的ではない。」と述べた。また、02年にベネズエラで発生したクーデター未遂に同氏が関与したとの疑いに関しては否定した。
(ロ)9月第1週よりマケイン共和党候補は、フロリダ州において新たなテレビCMの放送を開始し、その中でオバマ候補のチャベス大統領への対応を批判している。同CMは「オバマは誰と話がしたいのか?」とのタイトルの下、11日にチャベス大統領がダディ前駐ベネズエラ米国大使にペルソナ・ノングラータを通告した演説や、米国批判発言の映像を流し、最後に「我々はチャベスと対話をするべきだと思うか?」とのナレーションで締めくくり、任期1年目にチャベス大統領と会談を行うと発言したオバマ候補を批判する内容となっている。同ビデオはスペイン語で放送されており、主にフロリダ州に多く在住するラティーノへ向けたものと見られる。これに対してベネズエラ政府は、20日、同CMはチャベス大統領のイメージを悪魔化して恐怖を煽ることを意図しており、根拠のない攻撃である、として非難した。
(ハ)22日、オバマ民主党候補は、ラジオ局が行ったインタビューにおいて、「チャベス大統領は地域において反米感情を悪用している。これは、米国がイラク戦争に囚われてラ米に十分な注意を払ってこなかったために、チャベス大統領のような人物がその空白を埋めることを許してしまったのである。大統領に選ばれたら、ブッシュ政権よりもラ米に対するアテンションをより高めるつもりである。重要なのは、チャベスに対して過剰反応するのではなく、ラ米が必要としているものを理解し、ラ米諸国と敬意をもって対話を行うことである。」と述べた。
(二)19日及び22日チャベス大統領は、「(米国大統領候補者は)選挙キャンペーン中であり、チャベス批判は票になりうる。我々はこれらの根拠のない批判に忍耐と寛容をもって接しなければならない。彼らに唯一望むのは我々への敬意である。私は候補者ではなく、大統領に就任した人と対話をする。」と述べた。
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