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  ベネズエラ・マンスリー政治情報(平成20年 10月)

 

     


   

政 治 概 況

1.内  政

(1)チャベス大統領は11月地方選挙に向け、与党間選挙協力「愛国同盟」内の対立候補者への批判及び野党勝利州に対する制裁を仄めかす考えを示した。また検察に対しロサレス・スリア州知事の大統領暗殺疑惑を捜査するよう要求をしたことに端を発し、その後同知事及びディ・マルティーノ同州知事候補双方で汚職を告発仕合うなど、与野党間の対立が激化した。

(2)8日、南米諸国連合(Unasur)設立条約承認法案が国会で可決。14日には全国民の司法参加を保証するために司法制度の組織、連携、機能を調整することを目的とする「司法制度基本法案」が第一審議を通過した。

(3)14日、当地エル・ヌエボ・パイス紙(反政府系)社屋に催涙弾が投げ込まれ、同時に投げ込まれたビラから政府系支持派グループ犯行であるとの見方が示された。

2.外  交

(1)チャベス大統領は28日にエクアドルを訪問しコレア大統領と首脳会談を行った。また、29日にはモラレス・ボリビア大統領がベネズエラを訪問し、通商協定を締結した。

(2)マドゥーロ外務大臣は、イラン、スペイン、フランス、ロシア及びコロンビアを訪問し、各種協定の見直し及び二国間対話を実施した。

(3)16日、ゴンザレス・ベネズエラ国軍作戦戦略司令官及びプラトノビッチ・ロシア国家安全保障会議書記が二国間の防衛・安全保障、特に科学・技術・軍事的統合について会談した。

(4)30日、中国においてベネズエラ衛星「シモン・ボリーバル」(Venesat-1)が発射された。同衛星は先住民に対する二カ国語教育及び地方への衛星医療の実施が見込まれている。同日、 当国空軍総司令官が中国からの軍用機購入を発表した。

             

内 政

1. 08年地方選挙

(1)愛国同盟内の与党内対立

(イ)9日、チャベス大統領は、ポルトゥゲサ州におけるベネズエラ統一社会党(PSUV)選挙活動の場において、同党と共に与党間選挙協力「愛国同盟」を形成している、「皆の為の祖国(PPT)」及びベネズエラ共産党(PCV)が、PSUVへの統合を拒否していると批判した。また11日にも、PPT及びPCVが独自の州知事候補を擁立していることに触れ、両党幹部がチャベス大統領のリーダーシップを認めない以上、自身も彼らを認めないと述べ、両党を政治地図から抹消すべきであると批判した。

(ロ)10日、右大統領の批判に対し、ウスカテギPPT幹事長は、大統領は同党を愛国同盟から追い出す立場にはなく、統一政党結成の議論は既に終わっていると述べた。さらに12日、フィゲラPCV書記長は、同党を反革命的であるとした大統領発言を否定し、大統領の発言は単なる選挙用のものであるとした。また大統領が各党が独自候補を出すことを容認した7月7日の合意を無視していることは理解できないとして、PCVとしてはPSUVの16候補を支持するが、6州において独自候補を出す旨述べた。

(ハ)16日、PSUV政治局はチャベス大統領が同党候補の支持率が十分でないと見なされる、バリーナス、スクレ、カラボボ、スリア及びヌエバ・エスパルタ各州におけるPSUV候補の支持強化のために地方遊説を実施することを決定した。同大統領は前週にもポルトゥゲサ、トゥルヒージョ、グアリコ、スリア及びバリーナス各州を訪問し、同党の選挙支援活動を実施しており、特に右冒頭3州では、PPT及びPCVが独自に擁立している候補者に対して批判を集中させた。

(2)チャベス大統領の選挙支援活動

(イ)4日、チャベス大統領は、詳細には触れなかったものの、明年より地方振興計画「Plan Padre」2009-2013を実施していくことを発表し、本計画は中央政府が実施している社会ミッションと地方権力を連帯させ、国家と地方政府が共同で実施するものであるとした。また5日には、本プログラム実施には革命派の知事が必要であり、「PSUVが選挙後コントロールする州のみで実施される」と述べた。

(ロ)15日チャベス大統領は、PSUVの選挙活動に専念するため、自身のテレビ・ラジオ番組「アロー・プレシデンテ」の放送を11月23日に実施される全国地方選挙終了まで一時停止するとし、再開は11月最終週もしくは12月第1週を予定していると発表した。公共の電波を用いたチャベス大統領の選挙活動に関しては、先月ディアス全国選挙評議会(CNE)委員(反政府系)が長を務める同政治参加及び資金調達委員会がチャベス大統領が公共の電波を使用して自身が党首を務めるPSUVへの勧誘を実施することは憲法及び選挙・政治参加基本法に違反しているとの声明を発出しており、また野党からも公共の電波を用いて選挙活動を実施することは違法であるとの批判があがっていた。これに対しララ前通信情報大臣(グアリコ州知事候補)は、候補者に対する支持を表明する大統領の表現の自由は制限されるべきではないと、反論していた。

(ハ)24日、チャベス大統領はスリア州にて行われたPSUV選挙キャンペーンに参加し、同州知事選挙でPSUVが敗れた場合、同州との関係及び同州における投資プロジェクトを見直し、軍事行動を含む「チャベス・プラン」を実行せざるを得ず、同プランは同党が敗れた全ての州及び市で実行されると述べた。

(3)与野党立候補者を巡る動き

(イ)カプリレス・バルータ市長に対する再審理請求

(a)20日、ミランダ州知事選に立候補しているカプリレス・バルータ市長(正義第一等(PJ))が首都区裁判所第11一審法廷より、02年のキューバ大使館包囲事件(注:同年クーデター時に、キューバ大使館がチャベス派官僚を匿っているのではないかとの噂を元に、反チャベス派民衆が同大使館を包囲、侵入し器物の破損等が行われた)への関与疑惑に関する再審理を請求され、出廷を命じられた。本件については既に06年12月に最高裁で同市長に対し全容疑無罪の判決が下されている。なお同日、同市長は出廷したものの、再審理を担当しているアポンテ裁判官が法廷に現れなかったために審理は実施されなかった。

(b)これに対し反政府派は、本件を世論調査で優勢である反政府派カプリレス市長の選挙活動に対する政治的迫害と捉えており、同市長は、同じくミランダ州知事候補のカベージョ現職知事(PSUV)を今次再審理請求に関与しているとして非難した。他方、17日、カベージョ知事は本件について、カプリレス市長が自身を被害者に仕立てるために計画したものであると批判し、再審理を行うとの同法廷決定を支持しない旨表明している。

(ロ)ロサレス・スリア州知事に対する逮捕要求
25日、チャベス大統領はスリア州にて、ロサレス同州知事(新時代党(UNT)、マラカイボ市長候補)が、同大統領の暗殺計画に関与しているとして、検察及び最高裁に同知事への捜査を開始するよう要求した。これに対し同知事は、一連の同大統領発言は、最近の同州知事選に関する世論調査において、与党側候補が野党側候補に遅れをとっていることで同大統領が「選挙における絶望」を感じていることに起因する、と反論した。

(ハ)スリア州における与野党間での汚職告発

(a)28日、ディ・マルティーノ・カラボボ市長(PSUV)は、内務司法省に対し、ロサレス知事を汚職の疑いで調査するよう申請した。同市長は、ロサレス知事がマラカイボ市において名義詐称等の違法手段で農場14軒及び家屋6軒を取得した他、2,500件に及ぶ未完了事業の資金を私的流用したと告発し、同知事が給与所得のみで右資産を所有するに至った事実は注目に値すると述べた。

(b)30日、ルシアン会計検査院長は、会計検査院はスリア州に関連する調査を行っており、ロサレス知事について告発された事実が確認されれば、同知事に対し給与停止、職務停止あるいは15年間の公務員資格停止といった行政制裁を課す可能性があると述べた。
また国会会計委員会も、ロサレス知事に対し汚職疑惑について喚問を行うことを決定し、オルテガ国会第一副議長は、CNEに対し同知事及びUNTの選挙運動資金の調査を行うよう要請した。

(c)29日及び30日、UNT党員複数名は内務司法省に対し、ディ・マルティーノ市長の汚職疑惑に関して告発を行った。党員等によれば、同市長は05年以降、マラカイボ市内の契約ゴミ収集会社を複数回にわたり変更することで同市に5,000万ボリーバルの違約金を発生させた他、建設会社に対する手数料支払いの制度化、市所有地の不正利用も行ってきた由である。告発に関わったモントーヤ元国会議員は、国会はロサレス知事に対する調査を開始したのに対し、バリーナス州でのチャベス大統領親族による不動産購入やアントニーニ事件については調査を行っていないとして、本件はスリア州選挙における敗北を前にした政治的迫害であると批判した。

                  

      

2. 国会の動向

(1)南米諸国連合(Unasur)設立条約承認法案可決

8日、国会に於いて南米諸国連合(Unasur)設立条約承認法案が、第二審議を通過し、全会一致で可決された。右に関しオルテガ国会第一副議長は、Unasurへの加入はベネズエラ国民にとって喜ばしいことであるとし、米国及びその同盟国が主導する国際秩序及び各種経済金融機関が、同国における金融危機の影響を受ける中、Unasurは従来の商業主義概念を打破し、南米諸国自身が南米銀行、南米共通通貨、エネルギー統合、南米のメディア、南米防衛評議会等の設立を主体性を持って推進していくことを可能にするものである、と発言した。

(2)司法制度基本法案の第一審議通過

(イ)14日、ベネズエラ国会に於いて36条項、6臨時条項、1廃止条項を含む「司法制度基本法案」が第一審議を通過した。同法案全36条項のうち注目される点は、各司法機関の協力や協調を促進させるための司法制度改革に向け、政策立案及び実施を司る国家司法制度委員会が設立(第9条項)され、各司法機関の予算や政策を構築する権限が付与(第10条項)されている点及び、同委員会が国会議員、判事、検事総長、護民官等、各公権力の代表者によって構成される点である。右に関してヒメネス国会内務委員会委員長は、本法案は貧困層を含む全国民の司法参加を保証するために司法制度の組織、連携、機能を調整することを目的とするものであり、司法機関の自律性を侵害するものではないと発言した。

(ロ)これに対しモリーナ社会民主主義党(Podemos)議員は、右法案は国家司法制度委員会を通して大統領が司法制度を掌握しようとするものであり、司法制度について定めた憲法第253条に違反するものであると述べ、本案件を大統領授権法に基づいて制定された26の大統領令及び、国会第一審議を通過した「国土整理・管理法案」に続く28番目の法であるとして批判した。

  

 

 

3.反政府メディアへの攻撃

14日、当地エル・ヌエボ・パイス紙(反政府系)社屋に、2発の催涙弾が投げ込まれ、同時に投げ込まれたビラから政府系支持派グループ「ラ・ピエドゥリータ」の犯行であるとの見方が示された。犯行の理由を同集団は、チャベス大統領の暗殺計画を扇動している同紙ポレオ編集者(注:12日、反政府系テレビ局「グロボビシオン」番組内でチャベス大統領とイタリアのムッソリーニとの類似性を指摘し、チャベス大統領も同じく絞首刑にならないよう気をつける必要があるのではないか、と表明)に対する回答であり、同紙を「軍事目標」とすると発表した。同グループは9月23日にも当地テレビ局グロボビシオン社屋に同様の催涙弾を投げ込んでおり、同社を帝国メディア支配の手段であり、チャベス大統領に危害を加えるものである、と批判していた。

 

 

   

4.世論調査

(1)14日付エル・ウニベルサル紙は、Keller&Asociados社が実施した第三四半期における世論調査(対象人数1,200名)を報じた。右によると大統領の無期限再選に関しては全体の73%が反対しており、内、支持者系統別にみれば、強硬チャベス派の15%、穏健チャベス派の64%、中立派では90%となっている。また2012年大統領選挙におけるチャベス大統領の後継者は誰かとの質問に対し、「わからない」と答えた人が46%、「チャベス大統領自身」が28%となっており、以下与党候補としてはカベージョ・ミランダ州知事(12%)、モラ前徴税監督庁長官(3%)、バドゥエル前国防大臣(3%)、ロドリゲス元副大統領(2%)と続いている。

さらに、チャベス大統領及び与野党主要指導者の支持率を以下の通り報じている。

(イ)チャベス大統領              

支持

47%

不支持

41%

(ロ)ロペス・チャカオ市長(UNT)  

支持

49%

不支持

35%

(ハ)ボルヘス正義第一党(PJ)党首

支持

38%

不支持

44%

(ニ)ロサレス・スリア州知事(UNT)

支持

39%

不支持

47%

(ホ)カベージョ・ミランダ州知事(PSUV))

支持

27%

不支持

56%

(ヘ)モラ前微税監督庁長官(PSUV)

支持

23%

不支持

33%

(ト)バドゥエル前国防大臣(社会民主主義党(Podemos))

支持

21%

不支持

51%

(2)17日付政府系ボリーバル通信社は、ベネズエラデータ分析機関(IVAD)が実施した大統領支持率等に関する世論調査(全国主要都市における1,200名対象)を報じている。右によると、74.8%がチャベス大統領の10年の実績を評価すると回答し、34%が今選挙が実施されればチャベス大統領に投票すると回答した。政治イデオロギーについては、64.1%が社会主義、17.8%が資本主義を望ましいと回答し、このうち46.6%が民主社会主義に、43.5%が社会民主主義に賛成している。また全体の48.5%がチャベス大統領の提唱する民主社会主義に共鳴していると回答し、36.2%が反対を表明した。全国統一地方選挙に関しては、48.7%が与党候補の、27.3%が野党候補の選挙活動を好ましいと考えており、また34.9%が政府系候補者、22.8%が反政府系候補者に投票すると回答した。国内経済情勢の見通しについては、今後数ヶ月で改善するとの回答が56.5%、悪化するとの回答が31.3%となっており、またベネズエラの現在の問題点については、84.1%が治安悪化と回答し、以下、失業、インフレ、電力問題と続いている。

 

 

 

外 交

     

1. 対ラ米諸国関係

(1)対コロンビア関係

(イ)17日、マドゥーロ外相は、当地訪問中のベルムデス・コロンビア外相と二国間会談を行い、両国間関係を強化することで合意した。会談後マドゥーロ外相は、両国は協力、平和、対話及び信頼の上に、独自のアジェンダを構築しつつあり、引き続き二国間関係を再構築し、外交アジェンダを強化していかなければならないと述べた。これに対しベルムデス外相は、コロンビア政府としても二国間関係強化を推進する意向であり二国間委員会の設置、貿易担当大臣会合の開催及び両国石油公社(PDVSA及びEcopetrol)のオリノコ・ベルト地帯における共同プロジェクト実施の可能性等について検討する状況が整っていると述べた。また同外相は、両国はアンデス共同体(CAN)の枠組み外での二国間・貿易合意の進展を目指しており、ベネズエラのCAN復帰の可能性については協議していないと述べた。

(ロ)22日、同外相は、コロンビアとの二国間関係は信頼回復期を迎えつつあるものの、未だ多くの問題が存在していると述べた。特にサントス・コロンビア国防大臣がロシアから帰国した際に、ロシア側がベネズエラに販売した武器はコロンビア革命軍(FARC)には渡っていないことを保証した、と発言したことについて、チャベス大統領及びベネズエラ国民を侮辱するものであると批判した。また駐コロンビア・ベネズエラ大使(注:客年11月に本国召還中)の派遣についてもすぐには行われないことを示唆した。

(2)対コスタリカ関係

27日、コスタリカにおいて、ピネダ新ベネズエラ特命全権大使が、スタグノ・コスタリカ外務大臣に信任状写しを手交し、18ヶ月振りに両国の外交関係が正常化した。コスタリカにおけるベネズエラ大使ポストは、07年4月12日にウリベ前大使が離任以降、チャベス、アリアス両大統領による批判の応酬が行われ空席のままになっていた。またコスタリカも同様に、昨年来在ベネズエラ大使ポストを空席にしていたが、6月にデ・ラ・クルス新大使を任命し、同大使は8月19日にチャベス大統領へ信任状の捧呈を済ませている。

(3)対エクアドル関係

(イ)28日、チャベス大統領はエクアドルを訪問し、コレア大統領と会談した。チャベス大統領の同国訪問は本年2回目である。両大統領は両国間で実施している食糧、エネルギー、地域開発計画等15以上のプロジェクトについて確認し、さらに世界金融危機への対応策について協議した。またベネズエラ衛星「シモン・ボリーバル」(4.参照)へのエクアドルの参加に関しても話題に上り、両国大統領は今次会談を「大変有意義である」と評価した。その後両大統領は非公式に会談し、節約型電球工場、電車及びガスパイプラインの建設や、国立農業生物学校及び基礎食料バスケットの相互補助等を含む10件の新協定に署名した。さらにこれらの二国間プロジェクトを支援するための金額は公表されていないものの、二国間基金を創設する契約にも合意した。

(ロ)会談後チャベス大統領は、今次会談がより二国間の結びつきを強固にしたと評価し、コレア大統領も無気力や無関心に負けることなく、署名した協定や計画を実施しなければならないと発言した。両大統領は、合意した協定を前進させるため及び両国親善のために3ヶ月ごとに会談することを確認し、数ヶ月中にベネズエラで次回会談を行う予定であると発表した。

(4)対ボリビア関係

(イ)29日、チャベス大統領は、当国を訪問したモラレス大統領と会談を行い、両国間の貿易及び発展の連帯強化を目的とする社会開発協力及び、ボリビア製品のベネズエラ向け輸出特別メカニズム構築に関する、ベネズエラ工業供給公社(SUVINCA)及びボリビア貿易促進公社(Promueve Bolivia)間の協力にかかる2協定に署名がなされた。同席したマドゥーロ外相によれば両協定は米州ボリーバル代替構想(ALBA)の枠組みに則って締結されたものであり、同外相は今後、ベネズエラが両公社を通じてボリビア製衣料品を輸入すると発表した。

(ロ)今次協定の背景についてモラレス大統領は、米国がボリビアに対し麻薬対策が不十分であることを理由に「アンデス貿易促進・麻薬根絶法(ATPDEA)」に基づく関税優遇措置の廃止を決定したことを受け、ボリビア製品の輸出が滞らないようチャベス大統領に要請した経緯を明らかにした。また同大統領は、米国麻薬取締局(DEA)の国外追放の可能性を示唆しつつ、Unasurで麻薬対策メカニズムを創設すべきであると呼びかけた。これに対しチャベス大統領は、本協定は両国間の新しい貿易及び経済システム構築の一歩であると述べると共に、南米諸国はIMFに依存しないためにも、各国の外貨準備を集めた「南米金融基金」を創設することが緊急の課題であると述べた。

(5)対パラグアイ関係

30日、ソアレス・パラグアイ緊急事態庁長官(社会主義運動党(P-MAS)代表)は、チャベス大統領による同国チャコ・ボレアル先住民居住地区における干魃被害支援のための100万ドルの資金援助について、既にチャベス大統領から小切手を受け取っていることを明らかにし、本資金は同地区の飲料水貯蓄システムの建設及び公衆衛生の強化に当てられると述べた。

(6)多国間関係

25日、チャベス大統領は、29日よりエルサルバドルの首都サンサルバドルで開催予定の第18回イベロアメリカサミットについて、中米諸国政府や米国CIAが支援している元ベネズエラ軍人グループが自身の暗殺を同地で企てているという一連の情報を入手しており、身の安全が保障されていないとして不参加を表明した。これに対してサカ・エルサルバドル大統領は、エルサルバドルは責任を持ってサミット参加者に対する安全の保障を計画しているとし、チャベス大統領の発言は全国統一地方選挙を前にして出国したくないがための口実に過ぎないと述べた。

         

              

2. 対米関係

(1)米国関係者による米新政権の対ラ米及び対ベネズエラ政策

(イ)オットー・レイク、マケイン米共和党大統領候補中南米ブレーン発言(12日付エル・ナシオナル紙)

(a)マケイン候補が勝利した場合、メキシコ、コロンビア等の友好国に対して支援を強化し、米国を敵視する国とは対立を強める政策をとるであろう。これまで米国は全ての国と友好関係を築こうとしたため、チャベス大統領が米国の利益に反する行動をとりながらも対米石油輸出は継続できるものと誤解させる結果を招いたが、石油を含め、対ベネズエラ二国間関係については全てを見直すべきである。対ベネズエラ関係の修復は、チャベス大統領の出方次第であり、チャベス大統領の挑発を米国国務省は無視しているが、右挑発と、対FARC支援、及びニカラグア、エクアドル、ボリビア、アルゼンチン等への内政干渉及び挑発のための軍備増強やロシア艦隊の招致とは別であり適切に対処すべきである。

(b)ラ米地域は21世紀型社会主義といった誤った政策をとったため、豊富な資源があるにも拘わらず、引き続き援助を必要としているのに加えて、ベネズエラに見られるように、政府による汚職指標が高く、政権関係者が国との取引で儲けている状態である。このような無能力さや汚職、或いはベネズエラ、アルゼンチン、ボリビア、エクアドル政府のような経済政策をとる国を許容する地域を支援することはできないが、マケイン候補の自由貿易協定に対する立場はよく知られているものであり、同候補は右を望む国との間で協定締結を進めることに積極的であろう。これに対してALBA、南米銀行、また南米版のNATO等といった計画は真摯なものではなく、検討を要するものではない。(「ブッシュ政権はラ米への対応を怠った」との13日付ワシントンポスト紙の見方については)チャベス大統領はラ米での影響力を金で買ったのであり、これら全ては石油価格の高騰に依存するものであって、2〜3ヶ月後にどのような状態になっているかは不透明である。チャベス大統領がイデオロギー及び経済統制等のファシズム的考えでラ米における同盟を勝ち取ったとの見方に陥ってはいけない。

(ロ)ダニエル・レストレポ・オバマ米民主党大統領候補南半球政策ブレーン発言(19日付、エル・ナシオナル紙)

(a)オバマ候補は、ラ米に対して解決策を押しつけるのではなく、民主主義、機会、安全保障を社会の底辺から発展させるため、パートナーとして付き合っていきたいと考えており、我々は米国がラ米から離れたために空白が生じ、その空白が、反米政策を掲げるチャベス大統領に利用されたことを認識している。オバマ候補はこの空白を米国の利益・価値を投影して埋めようとしており、そのために、ブッシュ大統領のように貿易重視ではなく、麻薬対策、武器・資金・盗難車の流通といった問題に対する協力も含む包括的な政策を実施するだろう。

(b)石油取引についてのオバマ候補の戦略は、石油の外国依存のみならず、気候変動問題に対応するため、化石燃料そのものからの脱却を目指し、代替エネルギーに投資することにある。右政策の下では、米国の石油消費は時間とともに減少し、また、ベネズエラとの経済関係にも影響を及ぼすであろう。オバマ候補は選挙における反政府派の排除といったベネズエラにおける反民主的行為に懸念を有しており、また、ダディー米国大使追放については、国内問題から国民の目をそらすためのベネズエラ政府の戦略と認識している。このような戦略を採らせないために同候補は、チャベス大統領と無条件に会談を実施する用意があり、右会談においてベネズエラ政府に対し、基本権、民主主義を尊重するよう伝えるであろう。ラ米におけるロシア、イラン及び中国のプレゼンス拡大は、米国不在が作り出した空白の結果であり、最良の手段は、地域において米国がポジティブなイメージを持つことである。ベネズエラ政府がロシアの地政学ゲームの一部を成しているのは残念なことであり、ロシア及びイランのプレゼンスはオバマ政権にとって懸念材料となるであろう。

(ハ)米有識者討論会

(a)30日、在ベネズエラ米国大使館が主催した、ラウル・バルガス米共和党全国ヒスパニック議会議長及びエストゥアルド・ロドリゲス米民主党コンサルタントの、各米大統領候補の政策に関する電話討論会が実施された。

(b)対ラ米及び対ベネズエラ関係について、現在の米国民の関心は金融危機やイラク紛争であるが、両候補ともラ米を優先順位の高いアジェンダとして捉えるべきと主張している点で一致しており、チャベス大統領の「ネガティブ・レトリック」を批判しつつも、ベネズエラから米国に対するより建設的な姿勢が必要であると考えている。それを踏まえた新政権発足後の対ベネズエラ政策についてバルガス氏(共和党側)は、両国間には現在様々な問題が顕在しているものの、チャベス大統領が二国間関係正常化のための最初の一歩を踏み出すことを期待しており、米国はより多くの対話に向けて準備ができていると述べた。他方ロドリゲス氏(民主党側)は、オバマ候補のラ米関係構築戦略は、まずベネズエラと同様に対米関係が悪化している近隣諸国との関係を修復した上で、ラ米における米国のイメージ回復を図ることにあるとし、同候補は着任後100日以内に大統領特使をラ米に派遣し、右を通して各国首脳と対話をすると確言した。また、当国における地方選に向けた選挙活動において、チャベス大統領の米国批判が攻撃性を薄めたことに対してバルガス氏は、同大統領が自身のネガティブ・レトリックがベネズエラの為ではないと気がついたならば喜ばしいと発言したのに対し、ロドリゲス氏はチャベス大統領は次期米大統領が判明するのを待ち、ネガティブ・レトリックを再開するのではないか、との推測を示した。

(c)米国のエネルギー政策に関してバルガス氏は、両大統領候補とも対外エネルギー依存軽減のために、原子力や風力などの石油代替エネルギー構築を模索している点は共通していると述べ、ロドリゲス氏もオバマ候補とマケイン候補の本件に関する相違点は、前者は石油代替エネルギー開発を行う企業及び団体に対し、税制の優遇及び貸し付けを計画しているが、後者は代替エネルギー開発推進と共に、石油開発も引き続き行うという点のみであると発言した。また両者は新政権発足後10年以内にベネズエラへの石油依存体制脱却を目指すであろうとの共通認識を得た。

(2)イラン軍事関連企業に対する経済制裁の発表

(イ)22日、米国財務省は、カラカスに本店を有する国際開発銀行(イラン国営。イラン・ベネズエラ両国の合意に基づいて設立され、07年9月にベネズエラ銀行監督庁によって認可された)が、イラン国防軍需省及び同国の軍備拡張計画に対し、金融サービス提供を通して関わったとして経済制裁を実施する旨発表した。右制裁には、両行が米国で保有する口座及び金融資産凍結、及び米国市民に対する両行との取引禁止が含まれる。両行は既に米国財務省が作成するテロ支援グループ「ブラックリスト」に加えられており、米国政府による更なる措置として本制裁が実施されたと見られる。

(ロ)米国務省は、ベネズエラ軍事公社を含む世界の企業13社に対して、イラン、シリア及び北朝鮮に対して軍事技術・物資移転を行ったとして経済制裁の発動を発表した。

   

       

3.対欧州関係

(1)対スペイン関係

(イ)24日、マドゥーロ外相はスペインを訪問し、モラティノス外相との会談で、エネルギー及びインフラ整備を含む各種協定に署名した。エネルギー協定については、ベネズエラがスペインからの開発プロジェクトに対する技術移転と引き替えにベネズエラ原油をスペインに輸出する取り決めであり、取引価格等詳細については今後決定される見通しであるが、本協定を具体化するためのワーキング・グループが創設された。またインフラ整備協定についてはカラカスを中心とした鉄道整備をCAF等のスペイン企業が実施することが合意され、両取り決めを合わせると総額30億ユーロに上る。

(ロ)会談を終えモラティノス外相は、これらの協定は両国間の最大限の協力と協調の証であると述べ、二国間の関係は先のチャベス大統領のスペイン訪問で示されたように緊密で正常、かつ前向きで実りの多いものであるとした。またベネズエラからの麻薬対策に関する協力強化要請に対し、近々スペインの内務省代表団がカラカスを訪問することを表明した。これに対しマドゥーロ外相は、両国は政策対話と共に、経済、エネルギー、金融分野での二国間協力強化に取り組んでいると表明した。

(2)対ロシア関係

(イ)7日、ロシアを公式訪問中のマドゥーロ外相は、モスクワにてラヴロフ外相と会談した。右会談にて両外相は、多極世界構築、反覇権主義、国際法遵守といった世界ビジョンに関する共通認識を再確認すると共に、両国間の協力合意を発展させるための「包括的発展戦略プラン」を促進することで合意し、また両外相はエネルギー、工業、食料、投資保護、原子力の平和的利用などを含む14分野において戦略的プロジェクトを実施していくことで一致した。会談後マドゥーロ外相は、両国関係が最高の時期にあると評価した。また、両国間における金融の安定化を目的とするロシア-ベネズエラ共同銀行設立プロジェクトについてマドゥーロ外相は、ロシア側も同プロジェクトに支持を表明しているとしつつ、同銀行設立は新たな世界経済機構構築に寄与するだろうと述べた。これに対しラヴロフ外相も共同銀行は金融の安定化を保証するものであるとし、世界の金融や経済を規則する新たなメカニズムが必要である、と発言した。ロシアーベネズエラ間の軍事協力についてラヴロフ外相は、唯一の目的はベネズエラの防衛能力を補強するものであるとし、両国間の協定は透明性のあるものであり、国際法規に乗っ取って実施していると発言した。

(ロ)16日、ゴンサレス・ベネズエラ国軍作戦戦略司令官は、カラカスにてプラトノビッチ・ロシア国家安全保障会議書記と会談し、防衛・安全保障、特に科学・技術・軍事的統合について会談した。右会談後、同司令官は、国軍が30年前から保有し400台に上る、「老朽化した」フランス製戦車AMX-30及び英国製戦車Escorpiosを取り替えるため、ロシアからの戦車購入を交渉中であると明かした。また、購入の数及び予算は明らかにしていないが、T-72のような中型戦車、現在所有するBMP-3に類似した偵察戦車等の購入を想定しており、右購入は他国に不安を与えるものではないと述べた。

(ハ)30日、ベロテラン当国空軍総司令官は11月に実施予定のロシア軍との海上合同演習における当国空軍の参加について、ロシア空軍が今次合同演習で使用予定であったTuplevシステムが現在作業中であるため、今次演習へは参加せず、両国空軍による合同演習は右システムが使用可能になる予定の来年まで持ち越しとなったと述べた。他方で、未調整としながらも、国軍全体で防衛手段を確認するための実戦演習を行う可能性もあると述べ、空軍も右を通じて合同演習に間接的な形で参加することを示唆した。

(3) 多国間関係

(イ)欧州議会総会の決議

(a)23日、欧州議会総会終了後、人権に関する緊急討論が実施され、欧州国民党(PPT)が提出した、チャベス政権下における人権抑圧等に対する非難決議が採択された。同決議は、11月地方選挙における野党側候補への立候補資格停止措置、NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」メンバーの国外追放措置及び反政府派の学生指導者の殺人に対して非難及び遺憾の意を表明するとともに、11月地方選挙に於いて国際監視団を受け入れない可能性に対し懸念を示し、ベネズエラの国内状況及び11月選挙を注視していく旨表明した。本件について、決議メンバーであるポセルト(Posselt)議員(ドイツ)は、チャベス大統領を独裁者と表現した上で、ベラルーシとの関係構築によって世界中を恐怖に陥れようとしていると発言、またトマスゼウスカ(Tomaszewska)議員(ポーランド)はベネズエラに対し表現の自由を尊重し、民主主義に戻るよう要請した。これに対し欧州左派連盟のグエレイロ(Guerreiro)議員(ポルトガル)は、今回の決議を受け入れがたく軽蔑すべき行為であるとし、欧州議会の干渉行為を非難した。なお、右決議は、総会終了直後に採択されたこともあり、欧州議会議員全785名中、出席者は52名に留まり(左派政党は欠席)、うち51名の賛成により採択された。

(b)同日、ベネズエラ政府は外務省を通して声明を発表し、欧州議会の本決議の受け入れを拒否し、右決議は右派及び極右派によるベネズエラへの干渉であると非難した。また同日、国会は地方選挙にかかる資格停止措置は市民権力によるものであると擁護すると共に本決議を批判する声明を発表した。

(ロ)25日、マドゥーロ外相はフランスを訪問し、欧州連合、ベネズエラ及びラ米関係を協議する「欧州・ベネズエラ連帯会議」に出席した。右会議には、欧州側より政治評論家、文化関係者の他、ソアレス元ポルトガル大統領、ラモネ「ル・モンド・ディプロマティーク」元編集総長及び、マルティネス欧州議会副議長が参加した。会議後同外相は、欧州にとってラ米諸国は、新たな世界金融秩序構築に向けて重要な同盟国となり得るため、欧州は現在よりラ米に注視し、相互理解を基礎とした協力関係を築くべきであると述べた。またチャベス大統領が提案している、金融危機への対処及び右世界経済に与えるインパクトに対する共通の方策を模索するための各国首脳による国際会議にも言及した。

    

 

       

4. 対中国関係

(1)29日、中国四川省西昌に於いてベネズエラの衛星「シモン・ボリーバル」(Venesat-1)の打ち上げが行われた。右衛星の建設は、ベネズエラ政府が予算4.06億ドルで中国の企業に発注して実施されたもので、同企業はベネズエラ国内の2基地建設及び技術指導も併せ請け負い、同基地は現在ベネズエラ及び中国人技術者によって稼働している。チャベス大統領は同衛星打ち上げを評価し、同機が資本主義に基づいて打ち上げられた衛星とは異なり、社会的役割を果たす予定であることから、「社会主義衛星」であるとした。これについて、ナバーロ教育相(前科学技術相)によれば、同機による恩恵が遠隔地にまで到達することが期待されており、今後、先住民に対する二カ国語教育及び地方における衛星医療の実施が見込まれている。なお実際の衛星稼働開始は明年1月の予定であり、ベネズエラ政府は13年にも衛星第2機目を打ち上げる予定であると発表した。

(2)30日、ベロテラン当国空軍総司令官は、中国からK8型軍用機18機を訓練目的で購入することを明らかにした。同総司令官は中国からの軍備購入の重要性について、同国からの技術移転によってベネズエラ自身によるシステムの維持管理が可能になるとともに、パイロットが異なる国の軍事システムに接する機会を得られる点を強調し、今回の場合、かつてのワルシャワ条約機構及びNATOのように敵対する二つのシステムを使った訓練も可能になる、と述べた。

    

 

 

5. 対イラン関係

4日及び5日、マドゥーロ外務大臣はイランを訪問し、アフマディネジャド大統領と会談した。今回の訪問では、現在の世界の政治・経済・社会・文化情勢につき討議し、両国が有する200以上の合意の履行状況について確認し、右会談に於いて同大統領は、反帝国主義及び南南協力推進のための両国の関係強化の必要性を訴えた。また、同大臣はモッタキ・イラン外務大臣とも会談し、右会談後の記者会見においてモッタキ大臣は、チャベス大統領が年内にイランを訪問する予定である旨発表した。

 

 

    

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