2.グロボビシオン局に対する制裁
(1)事件あらまし
ア.11日,オルテガ検事総長は,昨年5月21日にスロアガ・グロボビシオン局社主が自宅敷地内でトヨタの新車24台を不正に所持していた件で,カラカス首都圏第13裁判所が同社主及び子息に対し逮捕状を発出し,同日,Sebinが,自宅を捜索したと発表した。同社主及び子息は,2月11日のラベル社長解任と同日に,刑事裁判のための予防拘禁措置が裁判所によって解除されていたが,スロアガ社主は3月25日にも米州報道協会(SIP)半期総会での発言に関して逮捕された後,国外渡航禁止措置を受け保釈されていた。
イ.12日,グロボビシオン局は,本件は,同局の報道の自由に対する政府による新たな蹂躙であると批判したコミュニケを発出し,ベネズエラでは異なった意見を表明することが犯罪であり,スロアガ社主は,政府を強く攻撃しているグロボビシオン局の社主であるという立場だけで,追及をうけていると表明した。また,14日には,スロアガ社主がグロボビシオン局の電話インタビューに応じ,本件は同局を黙らせるための目的で行われている,チャベス大統領による迫害であり不正であると糾弾し,国民に対し希望と信頼を持って,憲法を侵害しているチャベス政権に対抗するよう呼びかけた。
(2)ベネズエラ政府の反応
ア.チャベス大統領は,逮捕状発出に先立つ今月3日,自身のテレビ・ラジオ番組「アロー・プレシデンテ」において,司法が同社主を保釈したことに疑問を呈していた。また,13日の「アロー・プレシデンテ」では,司法は独立した調査を行っているとし,同社主自身が無実だと思うのなら,なぜ逃亡しているのであろうかと述べ,また15日にも,本件が自分(チャベス大統領)による迫害だと言うのであれば,なぜ法廷において説明をしないのかと批判した。
イ.12日,マドゥーロ外務大臣は,裁判を避け,逃亡するのはベネズエラの伝統的なオリガルキーのやり方であると批判して,本件に関し国際社会がベネズエラ政府を非難していることに対して,ベネズエラの内政問題として尊重するように強く要求すると述べた。
ウ.18日,エル・アイサミ内務司法大臣は,行方をくらましているスロアガ社主及びその息子の逮捕協力をインターポールに対し要請した旨発表した。
エ.18日,オルデガ検事総長はラジオ番組で,表現の自由とは関係のない問題での犯罪の容疑者に対し逮捕状を発付することで,報道の自由に対する侵害あるいは政治的迫害であるとの議論が起こることはばかげている旨述べた。
オ.モラーレス最高裁判所長官は,国際機関から懸念が表明されている点に言及し,「国際機関は各国の法制度を尊重すべきであり,国内の司法手続きの過程にある問題に対し介入すべきでない。また,国際機関の職員が各国の国内問題について言及する場合は,その国際機関の名ではなく,個人の名において行うべきである。」旨述べた。
(3)各方面の反応
ア.14日,クローリー米国務省広報担当国務次官補は,本件はベネズエラにおいて引き続き報道の自由が侵害されていることの例であり,真剣に懸念すべきであると表明し,米州民主主義憲章を遵守するよう求めた。
イ.ラ・ルエ国連表現の自由委員会委員は,今次スロアガ社主に対する逮捕状発出は新車の不法所持によるものとされているが,SIP半期総会における同社主の発言との関連を懸念していると述べ,意見の相違によって罰するべきではないと発言した。また,17日にも声明を発出し,いかなる政府も反政府派の批判を刑罰を持って黙らせる権利はないと強調し,本件は「政治的な理由」が疑われると述べて,ベネズエラ政府に対して,同国の表現及び報道の自由についての実態を調査するための代表団の訪問を受け入れるよう要請した。
ウ.14日,ピンエイロCIDHベネズエラ担当委員及びボテロ表現の自由特別委員長は,ベネズエラの表現の自由に関して深く憂慮していると述べ,こうした状況に関して報告するように求める書簡をマドゥーロ外務大臣宛に発出した。
エ.18日,グロボビシオン社主に対する逮捕状発付に反対する市民団体が,政府に抗議し街頭デモを行うとともに,グロボビシオン局の報道姿勢を支持する旨の書簡を同局代表に手交した。
オ.パトリシオ・ウォーカー・チリ上院議員等が,チリ政府として,米州機構(OAS)に対しベネズエラへの監視を強化するよう要請すべきとの提案を行うため,上院議会で本件を取り上げるべく働きかけている。 |