総 論
(1)当国では、大統領罷免国民投票及び地方選挙が政府側の圧勝で終了し、これまでのような大規模な集会、デモ行進等は減少しました。しかし、米国大使が2004年9月(或いは10月)にチャベス大統領の暗殺計画が存在する旨を警告していたことや、同年11月18日に発生した検事爆弾暗殺テロ事件等が示すとおり、反政府勢力の中には、同勢力に対する政府側の徹底した取締り(元首都圏警察長官、元労働者総連盟(CTV)議長の逮捕、マスコミ規制法案等)に対して、表だった抗議行動は控えつつも、パラ・ミリタリー等、外国のテロ組織と通じ過激な行動を起こす集団があること、更にはコロンビア・ゲリラ「FARC」(コロンビア革命軍)の幹部が当国内で拘束された事件が示すとおり、コロンビア・ゲリラが自由に行き来できるコロンビア国境付近の状況があること等が判明していますので、今後はこれらの点につき注意を要します。
(2)上記コロンビア・ゲリラにつきましては、近年、プラン・コロンビアにより、コロンビア国内においてその活動領域を失いつつあり、ELN(コロンビア解放軍)、FARCといったコロンビア・ゲリラや、右翼非合法武装集団(パラ・ミリタリー)等が、当国にその領域を求め流入して来ています。なお、これらの中には、当国の過激派組織FBL(ボリーバル解放戦線)等と関係を有する組織も存在すると見られています。また、最近、ELNの幹部は、「今後はベネズエラ国内において、誘拐犯罪を多発させる。」と公言しており、特に注意が必要です。
(3)爆弾事件につきましては、手榴弾や音響爆弾を使った事件が度々発生しており、特に2003年2月のゼネスト以降、当国における爆弾事件の態様が変化し、軍で使用されているC−4爆弾等強力な爆弾が使用されるようになったこと(2003年2月のコロンビア総領事館爆破事件、スペイン対外協力庁事務所爆破事件もこれら強力な爆弾が使用されており、最近では検事暗殺事件でもC−4爆弾の使用が確認されている。)や、軍の施設から度々、大量の爆薬、導火線、重火器が盗難に遭っていること、今後の大量武器購入計画による余剰武器の行方が懸念されていること、検事暗殺事件に関わったとされる弁護士宅から「ベネズエラ全土を爆破するのに十分なC4爆弾等」が発見されたこと等から、予断を許さない状況にあると言えます。なお、これら爆弾 事件は、特定の個人、公的機関、外国公館等を狙ったものですが、中には、ホテル、雑居ビル、大型スーパーマーケット、地下鉄駅等に設置される場合もありますので、ご注意下さい。
(4)2004年中の当国の一般治安情勢につきましては、統計史上過去最高を記録した2003年と比べ、総認知件数で235,710件(対前年比29,634件減)と11%減少しましたが、長引く不況による失業者の増加、先行き不透明な経済情勢、軍による警察機関からの重火器の押収等を背景に、殺人事件、身代金目的誘拐事件、侵入盗犯などは、統計史上過去最高を記録した2003年に次いで多く発生しており(殺人事件は5年前の1.63倍、身代金目的誘拐事件は統計を開始した4年前の3.5倍発生している。)、短時間誘拐事件に至っては、同2003年よりも100件増加し(+34%)、過去最高を更新しました。これらの状況から、治安が悪いとされている他の中南米諸国に比べても特に劣悪な一般治安情勢であることは間違いありません。
(5)当国における凶悪犯罪(殺人、強盗、誘拐等)は、従来「ランチョ」と呼ばれる貧民街及びカラカス首都区の中心街で発生していましたが、近年ではその発生場所が従来比較的治安が良いと言われてきたチャカオ市等、主な邦人居住地区においても多発するようになりました。しかし、2004年中の同地区における主要犯罪について、過去最高を記録した2003年中のそれと比較した場合、約25%減少しており、やや改善の方向に向かっていると言えます。但し、各月ごとの統計結果によれば、同地区内のアルタミラ地区、ロス・ドス・カミーノス地区、ラ・カステジャーナ地区、チャカオ地区、チャカイート地区等が時折、カラカス首都区における強盗事件、自動車強盗事件発生件数のワースト10位以内に位置されるなど(数年前まで10位以内の地区は貧民街又はカラカス中心街ばかりであった。)、犯罪の拡散化傾向が伺えます。
(6)2004年10月1日から開始された国家治安総合計画(Plan Piloto de Seguridad
Ciudadana)は、11月よりその効果が現れ始めました。これにより、カラカス首都区において夜間多発していました凶悪犯罪(特に自動車強盗事件)が減少し、総犯罪認知件数も減少しております。しかし、カラボボ州、アンソアテギ州においては、同月以降、犯罪がやや増加に転じました。また、同計画により、夜間多発していた犯罪が、人が多く通行する時間帯(朝夕の通勤時間帯、昼食時間帯)に移行し、これらの時間帯に多く発生するようになりました。
(7)カラカス首都区内における各種犯罪発生状況
(イ)カラカス首都区内を、@セントロ地区で大規模ランチョ街を有する地区、Aセントロ地区で小規模ランチョ街を有する地区、Bセントロ地区のその他の地区、Cセントロ外で大規模ランチョ街を有する地区、Dセントロ外で小規模ランチョ街を有する地区、Eセントロ外のその他の地区、という6つの地区に分類して2004年の統計結果を比較した結果、次の特徴が判明しました。
(ロ)特徴(2004年通年)
a.
殺人事件は大規模なランチョを有する地区(セントロ内外を含む。)で圧倒的に多発していますが(カラカス全体の72%)、その他の犯罪(強盗、自動車強盗、誘拐、侵入盗、自動車盗等)は、大規模ランチョ街よりむしろセントロ内外の一般住宅街(小規模なランチョを有する地区を含む。)で多く発生しています。
b.
比較した罪種のほとんどが全地区で2003年の統計結果よりも減少しているのに対し、セントロ地区のその他の地区及びセントロ外のその他の地区(つまり、ランチョ街の全くない地区)では、誘拐事件が増加に転じています。
c.
国家治安総合計画(Plan Piloto de Seguridad Ciudadana)の効果(2004年10月より犯罪が減少した地区)
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総犯罪: 全体的に減少傾向にあるが、特にセントロ外の減少傾向が顕著
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殺 人: セントロ外の小規模ランチョ街を有する地区で減少傾向
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強 盗: 全ての地区で平均的に減少傾向
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自動車強盗: セントロ外の全ての地区で大幅に減少、セントロ地区でも大規模ランチョ街を有する地区を除き、やや減少傾向
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侵入盗: セントロ地区の大規模ランチョを有する地区を除きやや減少傾向
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自動車盗: セントロ外の大規模ランチョを有する地区を除き大幅に減少傾向
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誘 拐: セントロ外の一般住宅街で増加傾向(その他変化なし)
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